【芸能】「逃走中」監督×プロデューサーが語る、映画で追求した登場人物の心情「テレビと同じことをしても意味がない」
【芸能】「逃走中」監督×プロデューサーが語る、映画で追求した登場人物の心情「テレビと同じことをしても意味がない」
今年で20周年を迎えるフジテレビ系列の人気バラエティ番組「run for money 逃走中」をドラマ映画化した『逃走中 THE MOVIE』が公開中だ。映画の舞台となるのは賞金総額1億円超え、参加総数1000人の史上最大級の「逃走中」。ゲームの鍵を握るメインキャスト6人には、JO1から川西拓実、木全翔也、金城碧海、FANTASTICSより佐藤大樹、中島颯太、瀬口黎弥と、人気沸騰中のボーイズグループがコラボレーション!ほかにも個性あふれる多彩な芸能人が逃走者として出演する。
【写真を見る】走るフォームが美しすぎる!東京ドームを駆け抜ける川西拓実(JO1)&佐藤大樹(FANTASTICS)
そんな本作のメガホンを取ったのは、おもにフジテレビのテレビドラマで演出を担当し『劇場版 コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(18)を手がけた西浦正記監督。MOVIE WALKER PRESSでは、「『逃走中』をどのようにドラマ映画化したのか?」という疑問を探るべく、西浦監督と「逃走中」の第1回よりチーフプロデューサーを務めている笹谷隆司プロデューサーにインタビューを敢行!「逃走中」の誕生秘話から「子どもに観てほしい」という本作に込めた想いまでたっぷり語り合ってもらった。
高校時代、共に陸上部だった大和(川西)、瑛次郎(中島)、賢(木全)、陸(金城)、勇吾(瀬口)、譲司(佐藤)の6人。卒業後それぞれの道を歩んでいた彼らのもとに、史上最大の「逃走中」への招待メールが届く。久しぶりの再会を果たした6人だったが、それぞれの事情からかつての絆は失われてしまっていた。そんななか「逃走中」が何者かに乗っ取られてしまい、一部のハンターが制御不能に!ハンターに捕まると消滅する、“命賭け”のデスゲームとなってしまう。
■「西浦監督は、日本の映画監督のなかでは一番『逃走中』を知っている監督」(笹谷)
――テレビのバラエティ番組をドラマ映画化するというのは、日本映画史のなかでもかなり珍しい取り組みだと思います。映画化の経緯を教えて下さい。
笹谷「『逃走中』には、未来世界でクロノス社が開催しているエンタテイメントゲームという設定があります。だから、いつかドラマや映画にしたいなとずっと思っていたんです。そしたら去年あたりにドラマ映画制作部の高田雄貴プロデューサーから映画にしませんかっていうお話をいただいて。我々も今年ちょうど20周年を迎えるのでタイミングもいいということで決めました」
――監督に西浦さんを起用したのは?
笹谷「『劇場版コード・ブルー』という大ヒット映画をつくられたという実績はもちろんですが、実は西浦監督は、過去に番組の『逃走中』でドラマ部分を2度ほど撮っていただいたことがあったんです。そういう意味では日本の映画監督のなかでは一番『逃走中』を知っている監督ということで、正直もう西浦監督以外考えられないと思っていました」
西浦「オファーが来た時にはびっくりしましたけど、ドラマ部分を撮影していた時に、笹谷プロデューサーとは、『これ映画にできるよね』っていう話をしていたんです。だから驚きはありましたけど、『とうとう来たか』という感じでしたね」
――とはいえ、『コード・ブルー』のようにドラマを映画化することと、今回のようにバラエティ番組を映画にするのとでは全然違うと思います。そのあたりはどのように考えたんですか。
西浦「映画でわざわざバラエティ番組を見せられてもなって思うだろうなという気がしたんです。だって普段は無料で見られるわけですから。だからどのような違いが出せるだろうかと考えました。番組の『逃走中』は、逃走者それぞれのキャラクターとか性格や、彼らがどれくらいお金をゲットできるか、最後まで逃げ切ることができるのかといった興味で見る。映画ではそこに、この人はなぜお金がほしいのか、なぜ走るのか、その理由まで見せて、もう一つ深いところまで描ければ、今回つくる価値があるんじゃないかと考えました」
笹谷「そうですね。やっぱりテレビ番組でやっていることを映画でやっても意味がない。番組では人の心理を描こうとはしているんですけど、ガチで撮影しているから、寄りの表情とか迫力のあるシーンは、なかなか思い通りには撮れない。そこが映画では圧倒的に違って、心情がしっかり描くことができるので意義があるなと思いました」
■「『逃走中』は、むき出しの人間が見えるところがとてもおもしろい」(西浦)
――そもそも番組の『逃走中』はどのような着想から生まれたのですか?
笹谷「20年前、僕はなにかワクワクドキドキする番組をつくりたいと思っていました。それで最初に無我夢中になったことってなんだろうと思った時に浮かんだのが、子どものころのかけっこや鬼ごっこだったんです。これを大人が真剣にやったらどうなるんだろう?というところから始まりました。シンプルで誰もがわかりやすくてワクワクできて、子どもから大人まで楽しめるっていうのが良かったと思います。しかも、そこにはお金が賭けられていて、お金も欲しい、名誉も欲しい、だけど怖い。そういう自分のなかの葛藤を見せていくという意味では、実はドキュメンタリー性の高いゲームバラエティになっていると思います。『心理逃走劇』という言い方をしているんですけど、裏切りがあったり、人を助けたり、その人の人間性や本質的なものを浮き彫りにするような番組なんじゃないかと思います」
西浦「僕も視聴者として番組を観ていて、やっぱりむき出しの人間が見えるところがとてもおもしろいなと思いますね。出演するタレントさんやアスリートの方々にはそれぞれのイメージが一般的にはあると思うんですけど、追い込まれると『この人が、こんなことしちゃうの?』っていうのがあったりして。本当にドキュメンタリーを観ている感覚でワクワクできるんですよね」
――『逃走中』の第一回は深夜番組として始まりました。その番組が20年も続いて、しかもいまは特に子どもたちが熱烈に見るような番組になりました。ここまで成長すると思っていましたか?
笹谷「誰も思ってないですね(笑)。20年前に始めたメンバーの共通意識は、とにかく自分たちがワクワクドキドキする番組をつくりたいということだったので。最初は10~20代前後の若い人たちに、流行り始めたという感覚がありました。mixiにいろんなコミュニティができて、全国で“知らない人同士によるリアル逃走中ごっこ”をやり始めるという現象があったんです。それがゴールデンタイムで放送するようになってから、急に子どもたちが見始めた。でも、『逃走中』ってお金のためにいやらしい人間性も出るし、怖い感じもするし、子どもには向かないんじゃないかと当初思っていました。それがまさかの子どもに刺さって、すごく人気になった。それは僕らとしてはまったく予想していませんでした。僕が一番うれしいのは、子どもたちから手紙をもらうことですね。『将来ハンターになりたいです』、『ハンターになるにはどうしたらいいですか?』って。絶対的に怖い存在が必要だと考えてハンターをつくったんですけど、怖いだけではなくて、カッコいい存在でもあり、憧れもある。そういう絶妙なバランスのキャラクターになったと思います」
■「ワイルドハンターの怖さは、マックスにしておかなきゃダメだなと思ったんです(笑)」(西浦)
――映画では「ワイルドハンター」として、番組のハンターとはキャラクター設定を変えていますが、その意図は?
西浦「ハンターはアンドロイドなので、基本直線的な動きしかしないんですよね。じゃあ、ハンターが自分で考えてあらゆる方向に動けるとなったら、超怖いなと思って。上から飛び降りてきたり、飛びかかってきたりする要素を入れて、恐怖感を増幅するのに必要だなと考えました」
――そのビジュアルは、子どもが見たらトラウマになってしまうくらいかなり怖い造形になっていますね。
西浦「それはめちゃくちゃ議論になったんですよ。どこまで怖くしようかって。でも、そこはマックスにしておかなきゃダメだなと思ったんです(笑)」
笹谷「子どものころの怖い体験ってずっと覚えてるじゃないですか(笑)。実は西浦監督に撮っていただいた『逃走中』の番組の一つは、富士急(ハイランド)に妖怪がたくさん出てくるという回だったので、その流れもあるかもしれませんね」
――10年後とかに「ワイルドハンター」のビジュアルが脳裏をよぎって、あれ怖かったなあって思い返すのはとてもいい映画体験ですよね。
■「メインキャスト6人の、ピュアでまっすぐな感情が映画にもすごく出ている」(笹谷)
――メインキャストにはJO1とFANTASTICSのメンバーから6人が起用されました。彼らをキャスティングした理由は?
西浦「まずこれからの人たちと仕事をしたいなと思ったんです。彼らの“上昇していこうというエネルギー”と“駆け抜けていく感じ”に惹かれました。一種のドキュメンタリー性も出るんじゃないかと」
――言ってみれば、JO1とFANTASTICSはライバルグループでもあると思うのですが、本作では同じ高校の陸上部の仲間という設定ですね。
西浦「映画では時間の都合上、高校時代のシーンはたくさん描けなかったんですが、本人たちが現場の待ち時間で、こちらが理想に抱いていたような雰囲気をつくって仲良く楽しそうにしていたんですよ。それが映画本編にしっかり滲み出ていて、物語に説得力を与えてくれました」
笹谷「ピュアでまっすぐな感情を出してくれて、そのフレッシュな感じが今回の映画にもすごく出ていると思います」
――『逃走中』はやはり「走る」というのが重要な要素だと思います。「走る」姿を撮る工夫は?
西浦「シチュエーションにもよりますね。先ほど言われたように、番組だとどうしてもカメラが近づけない部分がありますけど、映画では走っている寄りの表情も撮ったりしています。そのために何度も彼らに走ってもらって、足がガクガクブルブルになっていましたが、鬼教官のように『もう1回行くよ』って(笑)。若い彼らだからやり遂げられたんだと思います」
笹谷「番組の場合は、カメラマンとディレクターの3人1組でずっと走り回ります。逃走者とはぐれてしまうこともなくはないんですけど、なぜか不思議と一緒になれるんですよ。でも一番問題なのは、ガチでやっているのでやっぱりカメラに映っていない部分があるということ。最近はディレクターもカメラマンも全国から足の速い人を集めて、訓練もしてもらっています」
西浦「今回、番組の『逃走中』チームが手伝ってくれたので助かりましたね。笹谷プロデューサーとは昔からの知り合いなので、コミュニケーションがすごく取れたのが良かったです」
■「テレビ番組ではできなかったことが実現できた」(笹谷)
――映画には安田大サーカスクロちゃんやダイアン津田さん、HIKAKINさんなど番組常連の方たちが本人役として登場されています。
西浦「やっぱり番組とのシンクロ感も大事にしたかったんです。クスッと笑える部分とか、ほっこりできる感じが番組の『逃走中』にはあると思っていて、それを取り入れたいと思って出演していただきました」
西浦「この役にただベテランや大御所を連れてきても意味がない。意味がある人って誰だろうって考えた時に、『逃走中』にゆかりのある人として松平さんが浮かびました。加えて、今回の役どころは、シーンを重ねてキャラクターをつくっていくというよりは、あえてあまり説明しない。だから最初からラスボス感を背負った人じゃないといけない。その2点が起用の理由ですね。ご本人に乗ってもらえるかが大事なんですけど、松平さんは柔軟な考えをお持ちの方なので、楽しんで参加していただけましたね」
――今回の映画を拝見して、お話を聞くなかでも本作は「子どもに観てほしい」という強い意志を感じました。
西浦「そうですね。もとの番組を視聴している年齢層に子どもが多いということももちろんあるんですけど、やっぱり未来に向けて考えたいなと思ったんです。それで問題提起といったら大げさですけど、問いかけたいという想いがあったんです」
笹谷「本当に番組ではできなかったことが実現できたのでうれしいです。いままで観られなかった新しいものが描けた。子どもだけでなく、親子で一緒に観て楽しめる映画だと思います」
取材・文/戸部田 誠(てれびのスキマ)