【芸能】終戦の日「映画 窓ぎわのトットちゃん」上映 八鍬新之介監督が語る制作秘話【ひろしまアニメーションシーズン2024】
【芸能】終戦の日「映画 窓ぎわのトットちゃん」上映 八鍬新之介監督が語る制作秘話【ひろしまアニメーションシーズン2024】
広島市で開催中のアニメーション芸術の祭典「ひろしまアニメーションシーズン2024(HAS)」で8月15日、「映画 窓ぎわのトットちゃん」が上映され、八鍬新之介監督と映画祭アーティスティック・ディレクターの山村浩二氏がトークを行った。
映画は、俳優でタレントの黒柳徹子が自身の子ども時代をつづった同名ベストセラーをアニメーション映画化したもの。好奇心旺盛でお話好きな小学1年生のトットちゃんは、落ち着きがないことを理由に学校を退学させられてしまう。東京・自由が丘にあるトモエ学園に通うことになったトットちゃんは、恩師となる小林校長先生と出会い、子どもの自主性を大切にする自由でユニークな校風のもとでのびのびと成長していく。
トークのはじめに聞き手の山村氏が、「戦前から戦争に入っていく過程も描かれるこの映画を、8月15日、終戦記念日に広島の地でこの映画を見ることに特別な意味があると感じます。その中心はトモエ学園という、戦中でも自由な校風で子どもたちを受け入れた学校。国益のためという大きな大義の中で子どもたちが殺される中、そういった大義とは関係ない大きな愛情で、小さな子どもたちを教育と愛で包んでいった学園。そういったコントラストが見事に描かれている」と感想を述べる。
八鍬監督が本作を企画したのは2016年。「その年は、シリアの内戦のニュースが放送され、たくさん子どもたちが犠牲になっていると知りました。日本でも障害者施設での殺傷事件があったり、子どもの虐待のニュースもすごく増えていた。そして自分にも子どもが生まれたタイミングでもあったので、この子たちが大人になった時に、明るい社会にいられるんだろうかという不安があったんです。そこで、自分はどういうことで社会に貢献できるだろうと考えた時に、魔法や冒険のファンタジーではなく、映画を見た人が社会を見つめ直せるような作品を作れないかと考え、原作の『窓ぎわのトットちゃん』と出合いました」と経緯を語る。
様々な理由からこれまで映像化されていなかったが、原作者から許諾を得られたのは「黒柳徹子さんも世の中がちょっときな臭くなっているのを感じられていたそうです。そのタイミングで企画を持ち込んだのが許諾をいただけた1番の理由だと思います」と振り返る。
映画化企画が進むも「原作は独立した短い話の連なりで、そのままだと1本の映画としてまとめるのが難しかった」と八鍬監督。「そこで、 泰明(やすあき)ちゃんという親友との出会いから別れを軸として再構成しました。もう1つは戦争の要素です。時代は昭和15年から20年という、日中戦争と太平洋戦争のまっただ中の話。でも、実は原作では戦争の描写は出てこないので、読んでいてその時代を意識することはないのですが、映像化した場合に服装や建物、看板など戦争の要素が出てくるのは避けられないと思いました。ですから、中途半端に戦争の様子を入れるよりも、物語全体を支配する歯車としてしっかり展開に組み込もうと意識しました」と自身の意図を説明する。
原作には画家、いわさきちひろのイラストレーションが印象的に用いられているが、アニメーション化でのビジュアル面については、「いわさきさんの絵にパブリックイメージがあると思ったので、まずは背景を、ポスターカラーを使って、塗り逃しのあるような、水彩画に近い印象にしようと考えました。たまたま徹子さんが『世界ふしぎ発見』でカール・ラーションという画家を特集している回があり、その方の絵がなんとなく理想に近く、美術さんやキャラクターデザイナーさんと色彩設計を話し合って淡い画面を作っていきました」と振り返る。
時代考証についても、多くのリサーチを重ねた。「最初はプロットとキャラクターデザインから始めました。最初僕らが想像していたのは『火垂るの墓』や『はだしのゲン』のような世界観のやんちゃな女の子でしたが、(トットちゃんは)東京の山の手育ちで、パンを食べていたという、僕らが知らない時代の日常の世界があった。これはきちんと調べないと間違えたものになると思い、徹子さんご本人はもちろん、時代考証の専門家にもしっかり話を伺って組み立てていきました」
これまで映像化を許可してこなかった理由のひとつに、トットちゃんが通ったトモエ学園の校長、小林先生が実在の人物であり、小林先生役に合う俳優がいないということがあったそう。「アニメーションの場合は、ご本人の写真と徹子さんから聞く人となりに合わせて自由にデザインできるので許諾をいただけた」と明かす。
聞き手の山村氏は、アニメーションでは珍しい、人物の唇や頬骨が描かれたキャラクターに、「顔の作りはもちろん、小さな小指の感覚まで伝わるような丁寧な作画がされており、実在の人物を映像化するという部分でとても有効。肉体的な感覚を得るからこそ、映画の中で死にうるものになっていると思う」とリアルな肉体性に着目した。
そういった特徴について八鍬監督は、お転婆で、やや忙しないトットちゃんの動き、また親友の泰明ちゃんが小児麻痺を患っているという設定については、発達障害を抱える子どもたちが通う学校や、ポリオ患者による団体を取材した。さらに、偶然にも「徹子の部屋」のプロデューサーが、小林先生についての著書を出版していたという逸話も明かした。トモエ学園の卒業生による書籍と併せて、小林先生の戦争に対するスタンスが見えたという。
ヨーロッパに留学経験のあった小林先生は、戦争には協力しない姿勢を見せたトットちゃんの父親とは異なり、敗戦国ドイツの悲惨な状況を知っているがゆえに、戦争を始めたからには勝たなければいけないという考えを持っていたが、多くの命が失われることに憤りを見せる葛藤も表現した。「トモエ学園も国の方針からは逃げられなかった。そんな中でトモエ学園を守ってきた、小林先生の綺麗事ではない部分を意識した」と本作での設定を解説する。
そのほか、子どもたちが裸でプールで水遊びを楽しむ幻想的なシーンについてのこだわり、物語の舞台となった東京・自由が丘を中心とした東急線沿線の当時の街並みの描写などのプロセスも振り返る。
原作者の黒柳徹子がナレーションを務めたことには「ご本人に出ていただけたのは本当に光栄なこと。アフレコで徹子さんご本人がドキドキしながら収録してるんです。あれだけずっと芸能界、テレビで活躍されているのに、ずっと好奇心を失わずに仕事をされる姿勢が変わっていないのだな、と感動しました」と述べ、小林先生を演じた役所広司ら俳優陣には、アニメーションではあるが外連味のない自然な演技を依頼したという。
最後に山村氏が「過剰な演出を抑えながら丁寧に作られた映像。戦争や平和をどう考えて伝えていくかは難しいことですが、原作も平和へ貢献するものであり、このアニメーション作品は次の世代、そしてこの作品をまだ知らない世代にも伝わっていくと感じています」と述べ、この日のトークの幕を閉じた。
「ひろしまアニメーションシーズン2024」は、8月18日まで開催。全プログラム、チケット詳細は公式HP(https://animation.hiroshimafest.org/schedule/)で告知している。1日券は3000円。1回券は1200円。そのほか全プログラム券や、大学生、高・中学生料金あり。